「坂井、俺のこと、覚えてないだろ?」
こんな時間じゃなくても、人通りのない体育館裏まで来ると、河野さんのことを悪く言った人は綺麗な顔を歪め、俺を見つめた。はて、どこかで会っただろうか。確かに見覚えはあるような…気はしているんだけど。
「……さすがにショックだな。転校初日にぶつかったじゃないか?」
「あ、あの時の?」
なんか覚えてろって言われていた気もする。
「ちっ、疑問形かよ。まあいい。俺の犬たちが坂井に大変失礼なことをしたみたいだから、いちお、謝っておいてやる」
「犬に迷惑なんて俺かけられてないです。人違いじゃないですか?」
「坂井っ!」
「え、うわぁあ」
急に右手を掴まれるとそのまま体育館の壁に押させえつけられた。綺麗な顔に見合わない力だ。本能的にあいている左手で彼のことを殴ろうとしたら、そっちも上手に掴まれ、俺の頭の上で右手と一緒に拘束された。

「なんでお前は俺のこと馬鹿にすんのかな…」
淡々と彼は俺を見つめながら、俺の両手を片方の手で押さえ、もう片方の手で俺の顎を持ち上げた。

「結構、俺好みなのに」
「え?」
好みってなんだろう?
彼の言いたいことが俺には全くわからない。迂闊にも「何のこと?」なんて質問したら、彼は綺麗な顔をよりきつく歪ませて、笑った。その笑顔がとても怖いと思ったら、俺はもう震えるしかなかった。

「怯えているの、可愛いな」





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