「あの、ここでお弁当食べてもいいですか?」
しばらくの沈黙の後に俺は震える唇でそう言った。本当は一緒にお弁当を食べたいと言いたかったのだが、素直になりきれない俺だった。が、一拍置いてから、彼は不思議そうな顔をして、こくりと頷いてくれた。俺はそれがすごく嬉しくて思わず頬が緩んでしまう。変な奴だと思われてなかったらいいな、と思いながら俺は図々しく彼の横に座りこむと自分の弁当のハンカチをほどいた。
「あの、お名前、聞いてもいいですか?」
本当はクラスとかもっといろいろ聞きたい気持ちもあったけど、それはいくらなんでも馴れ馴れし過ぎる。

「河野」
とても澄み切った声で彼は…いや河野さんは名前を教えてくれた。下の名前も知りたいと思ったけども、今はよくばらないことにした。そもそもこの状況自体、奇跡に近いものだろう…。

「俺は坂井香湖って言います」
仲良くして下さいと気持ちを込めて自己紹介してみた。すると河野さんは無言で頷く。もしかして俺ってうっとうしがられているだろうか。
そりゃあ、初対面みたいなもんだし、ちょっとでしゃばりすぎたかな。

「あの、昨日は、ありがとうございました」
河野さんが何処かへ消えてしまわないうちにと俺は昨日のお礼を口にする。すると、さっきまで微動もしなかった河野さんが「誤解だ」と言って、勢いよく俺の肩を掴んだ。

そして、キスされた。
強引で無理やりなキスだった。なのに、俺は意識がボーとして、河野さんが舌打ちして何処かへと姿を消しても、しばらく、足がたたなかった。





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