「俺ですか、俺は…」
言葉を途切れ途切れに、紡いで、視線を泳がして、困ったような顔をして、西沢は俺をじっと見つめた。
「好きです。氷上さんが誰かにバレンタインのお返しを考えているの、嫌です」
「え?」
「だから、そういう意味です。格好悪いでしょ…」
俺はそんな感じです、と西沢は言う。
俺はこの時、不謹慎に嬉しいと思った。
「…俺も、西沢が、誰かにお返し、買いに来たのかなって、思った」
「え?」
「俺、西沢に、お返し買いに来たんだ、今日、実はその、あ、ああ、そうじゃなくて…!」
しまった。ついポロリと言っていまった。
「そうじゃなくて…」
迷惑じゃないだろうか…俺がこんな一か月も前のこと、本気にしているとか。

人は心移りする生き物なのに。

「違うんだ。違う…」
俺は必死になって、ごまかそうとしたら、西沢は笑っていた。
どうして…?
「もう、本当に可愛いんだから」
「え? どうして今そんなこと言えるの? 俺、一か月も前のこと、真剣になって馬鹿みたいじゃない、迷惑じゃない、困らせてない、大丈夫?」
「あはは、本当に馬鹿みたいで、迷惑で、困ってます。大丈夫なわけがないですよ」
ゆっくりと西沢は俺の頭をなでた。
言葉と行動がチグハグだ。俺の心もチグハグ。
どうして、西沢は迷惑だって言ったのに、その優しい笑顔に喜びを感じるのだろう。
「責任とってくださるんですか?」
「え?」
わ、近い。西沢の顔が、今、とても近い。
俺は後ずさって、壁に背中をつけた。
すると、西沢は「そうですよね」と一人納得したように頷くと、両手をあげて、またいつも通りのテンションに戻って「俺、好きだから、氷上さんのこと。本当に好きだから、何もしませんよ。えへへ。ただね、俺の気持ち知っていてほしかっただけなんですよ」と言う。
「それって、どういうこと?」
「どういうことでしょうねっ」
「わからないから、俺…教えてほしい」
背中を向けて歩き出した西沢の服をつかむと俺はそう言って引きとめた。
「教えてほしい…」
俺にお返しとか一か月も前のことを考えられるのは迷惑だと西沢は言った。なのに、俺のこと好きだと西沢は言った。
「俺、わかんないよ…。西沢、西沢は、俺が、まだバレンタインのこと、忘れられなくて、本気にしているのに、それ、迷惑なのに、なのに、好きだってなんでそんな…ぁ」
ひどいこと、言うの?






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