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「ひどいよ、せっかく俺が狩野くんにドーナッツ買ってきてあげたのに…」

顔を真っ赤にして紅屋さんはなよなよと呟いた。その腕のなかには可愛らしい包装がされたドーナツがある。

「夢だったって言ってたから、狩野くん、恋人に、ドーナツ買ってきてもらうのがってだからその、さ」

「紅屋さん…」

「メール返さなくてごめんね。ちゃんと言いたくてその…あのね、狩野くん。俺はかもしれないとかそういうんじゃなくて本気で狩野くんのこと好きだよ。だから、よかったら、お付き合いしてほしい」

よかったらでいいよと紅屋さんは言った。よかったらも何もない。俺、昨日の夜から一晩中考えていたよ。悩んだよ。かもしれないって言ったけど、俺は本気で紅屋さんのこと好きなんじゃないかなって。

でもね…俺って問題児だ。きっと紅屋さんに迷惑をかける。いや絶対に何か巻き込んでしまうかもしれない。そんなのは嫌だ。


「あの、紅屋さん俺も、紅屋さんのこと好きだよ。好きだから、その、俺のそばにいて危ない目に会うかもしれないって今更思ってその…」

「狩野くん、大丈夫。そんなの狩野くんが自慢の腕で守ってくれたらいいんだからね」

「紅屋さん…」

どうしてだろう。たったそれだけの言葉なのに、俺は全部丸く収まったような気になった。

「ありがとう…」

「ううん。俺の方こそ、ありがとう」



俺の些細な夢が現実になった日だった。
だから、叶わないって思っていた『恋人が俺にドーナツを買ってくれる』という願いみたいに、俺は『紅屋さんが俺の隣にいることで幸せだと思えるそんな存在になりたい』と、ちょっと難しそうなことを祈ってみた。

必ず、叶うように俺は努力するつもりだけど、な。






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