「氷上さん!」
「え?」
一人で悲観的になって、ワッフル屋さんから逃げるように歩き出した俺の後ろから、名前を呼ばれて振りかえると、そこには西沢がいた。
今、会いたくなかった。
「何してるんだよ?」
俺は自分の気持ちをごまかすように、目線をそらした。
「それはこっちのセリフですよ、氷上さん。何されているんですか? 誰かにお返しとか…?」
ホワイトデーフェアの会場に似合わない、不満な顔して、西沢は俺をじっと見つめた。
誰がお前のために何か探しに来ていたとか言えるかよ…
でも、嘘はつきたくないから、
「そ、そんなところかな…?」
俺は適当に話題を濁そうとした。
「へー」
自分から質問してきたくせに関心なさそうな返事を西沢はした。俺は不安になる。
俺にとって西沢はいつもニコニコとくっついてくる可愛い後輩だったから。
そんな顔、されたことなんてなかったから。
どうしたらいいのかわからない。
ただ、このまま沈黙しているのは耐えられなかった。
「そんなことよりも西沢は何をしに来たの?」
俺は、西沢は誰かにお返しとか買いに来たのかなって思って、尋ねた。
尋ねておいて、胸のあたりがチクリとした。

あれから一カ月。
今さら西沢の好きですって言葉の真意を確かめることなんて俺にはできない。
だって、困らせたくないから。

「……秘密です」
「えー」
隠し事をされたのが不満で、でも、誰かにお返しを買いに来たのだとかそんなことが明確にならないことが嬉しかった。
きっと興味本位でここにきたんじゃないだろうか。
俺はそう思うことにした。
すると、少し、胸の痛みは和らいだような気がした。
「ちょっと知りたかったなー」
自分でもびっくりするような甘い声が出る。
「そんな声出されても、言いませんから!」
「そんな声ってどんな声だよ」
俺は思わず笑ってしまった。
すると、西沢はむっとした顔に戻る。
え、俺、何かした?
やっぱり声、気持ち悪かったかな…?






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