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『狩野くん、今日は1通もメールがないので心配。あ、でもだからってこんなメール打つなって感じだよね。ごめん。何かあったなら、俺でよかったら相談に乗るからね。ネット幼馴染の紅屋でした』
家に帰って携帯を開いたら、そんな優しいメールが来ていた。俺はぽろっと涙を流しかけたけども、こらえた。俺は泣いちゃだめ。俺は強くあらないといけないのに。
でも……
『紅屋さん。実は今日、ちょっとした喧嘩をしたんだ。相手は途中で逃げたんだけど、その後に俺だけがつかまって、お説教されたの。へこんじゃった』
と本文を打ってメールの返信をした。
これなら、平凡っぱいよな。
ちょっとした喧嘩で俺だけが怒られた。それでいいや。俺は、ずっと長い付き合いなのに、紅屋さんに自分が世間でいう不良だってこと、伝えていない。別に紅屋さんを疑うわけじゃないけど、俺がそんな喧嘩ばっかしている不良だって紅屋さんが知ったら、ショックだと思うし、もしかしたら、背中を向けられるんじゃないかって怖くてさ。馬鹿みたいだ。俺がこんなことでくよくよしているだなんて。
「!」
紅屋さんからメールの返信が来た。
『狩野くん…喧嘩しちゃったんだ…。それだけでも辛いのに、誰かに怒られたらもっと辛いよね。大丈夫って聞いたら変だね。うーん、こんな時はどうしたらいいのか、俺にはわからないけど、何か自分の好きなことして気分転換するか、もういっそのこと寝てしまったらいいと思うよ。落ち込んでいくばかりは辛いから。もう、これ以上、俺は狩野くんに辛い思いしてほしくないって思うけど…その…上手に何も言えなくてごめんねっ!』
俺は慌てて返事を書いた。
『大丈夫だ。紅屋さんの優しさで復活した。暗い話をしてごめんね。あ、この前のドーナツの話なんだけど、俺の学校にも来ていたらしいよ。俺の友達が言っていた』
『嘘! 買ったの? 買ったのかな?』
『買ってないよ。俺って見た目が怖いらしいから、あんな人だかりに近づいたら、迷惑になってしまうし。それに、今はいいの。いつか、可愛い恋人が俺の分も並んで買ってきてくれるんだぁ』
『お、狩野くん、恋人がいるの?』
『いない。誤解される言い方したかな。いつかっていうのは、いつかできたらなって意味のいつかな』
『な〜んだ。じゃあ、俺と一緒で優雅な一人身かぁ』
『優雅? 寂しいじゃなくて?』
『ポジティブだよ、狩野くん。ものは考えようで、世界はかわるのだ。だから、俺は寂しい一人身ではなくて、優雅な一人身だと言うよ。それに、今は恋人がいないからこそ、自由にやっていられていると思うんだ。だから、俺はそのプラスを今は大切にする』
『紅屋さん。俺、紅屋さんのそういったとろこ、憧れますっ』
『照れるから、そんな風に言わないで』
『えーなれているんじゃないの?』
『なれてなんかいないから。俺、ずっと黙っていたけど、見栄っ張りで意地っ張りだから、あまり普段はおしゃべりできないんだ。澄ましているってよく言われちゃう。でも、ずっとね、小さい時からありのままでこうして狩野くんが俺とお話をしてくれて、嬉しいよ。なんて、急に、伝えてみたりして』
……この人はどうしてこんなにも可愛いんだろう。
俺は落ち込んでいたことも忘れて、意識が睡眠に奪われるまで、メールをしていた。
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