『狩野さんっ』

いつからだろうか。そうやって慕ってくれる弟みたいな奴らが俺の周りに集まり出したのは。
まぁ、必要とされているのは嬉しいことだからさ、悪いことなんて何もないんだが、たまに疲れてしまう。
なんていうのかなぁ…
自分にないものにあこがれてしまうっていうのかな。


「…俺の柄じゃ…ねぇよな…」

自室で一人、俺はひっそりとノートパソコンを開いて、可愛らしいピンクのデザインが魅力的なサイトに行く。

「お!」

今日は紅屋さん(サイトの管理人さんの名前)日記を更新している。俺はマウスを握りなおすと、カーソルを「ブログ」という文字に合わせてクリックした。


『5月14日金曜日。今日は何だか学校が騒がしかった。何かなって思ったら、一日限定でドーナッ屋さんが車で売り出しに来ていた。遠目で見たんだけど、すごく可愛らしいドーナッを売っていた。俺も食べたいなって思ったんだけど、お客が女の子ばっかだったから、買えなかった。しょぼん』


……しょぼんって!
俺はほのぼのとした面白みに笑ってしまった。きっと紅屋さんは真剣に落ち込んでいるんだろうけど、俺は、失礼にも面白くて仕方ない。
なんて可愛らしい人なんだろう。
俺よりも一つ年上のこの日記の主は、ペンネーム「紅屋」といって、儚く優しい小説を書くのが3度のご飯より好きな男の人。そして、俺の幼馴染。いや、本当のリアルな幼馴染ってわけじゃなくて、ネットで小さいころに知り合ってずっと付き合いがあるんだ。
だから、俺たちは「ネット幼馴染」というのが一番しっくりとくるのかもしれないな。

パソコンもそうだけど携帯のメールボックスもいつからか、紅屋さんとの他愛のない会話で一杯だ。
はじめはネットの掲示板からはじまった関係で、俺は顔も知らない相手としても、紅屋さんのこと大切だと本気で思っているし、誰かに薄っぺらな関係だとか言われても俺はそう思わない。
だって、こんなにも、俺たちは関わってきたんだって、古いメールを見返して、思い出す。


幸せだ。






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