何故




「なぁ、佐中、俺が殴ったのまだ怒っているのか?」

お昼休み俺の席の前までくると、村井はぶっきらぼうにそう言った。
俺はしばらく目の前の出来事についていけず、ぼんやりと村井に見とれていた。

「おい、佐中!」

「へ?」

村井が怒って、俺の机から身を乗り出してきて、俺は正気に戻った。

「ごめん、ぼーっとしてて。俺、もう、怒ってないけど?」

もとはと言えば、あれは俺の不注意。
喧嘩中の村井と誰かさんの間を通りすがろうとして、俺にたまたま村井の拳がぶつかっただけ。

「そうか、なら、いんだ…」

村井はブツブツとそう言って、俺の前から去ろうとした。
が、少し立ち止まって、振り返ると深刻な顔をした。

「佐中が俺のこと見ていたからさ」

「え、気のせいだろ…」

「だろうな」

わりぃと右手を振りながら、村井は背中を見せた。
俺はその男らしい後ろ姿に見とれていた。

(でもどうして俺が見ているって気がついたんだ?)






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