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「卑怯です。なんで先生はそんな風に俺の気持ちをないがしろにするのですか?」
「迷惑だからだ」
「何が迷惑なのですか?」
「さあな」
俺は背中にあるカーテンを後ろ手で握った。
「何が迷惑なんだろうな。奈倉ならわかるだろう」
「わかりたくないです。いえ、俺は認めたくないです」
「これが現実だ。理想は捨てろ」
「理想なんて俺にはないですよ。俺はただ貴方と一緒にいたいだけなのですよ。特別になりたいだけなのですよ。俺、貴方に難しいこと求めてますか?」
「それが難しいってことわかれ」
俺は絞り出すようにそう言い、奈倉の腕を払って、教室を後にした。
本当はずっと、いつだって、俺は、奈倉の前から逃げることはできたんだ。
ただ奈倉が可哀相だからって、奈倉に付き合い過ぎた。
今はそれがとてもくやしいのだろう。
だからこんなにも辛いんだろうな、俺。
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