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ただ、一つ、後になって後悔したのは、俺を殴ろうとしていた彼が一部始終、近くにいたことを忘れていたことだ。

後で、俺は河野さんにそれを伝えた。もしかしたら、また変な噂が流れてしまうかもしれないと思ったからだ。河野さんだって心の準備くらいいるだろう。そう思ってのことだったのに、河野さんは一言「知っていだ」と口にしただけだった。

「知っていたなら、なんであんなこと、したんですか?」
「何かよくないことをしたか?」
淡々と河野さんは俺を見つめる。いや、したと思うけど、そんな自信満々に自分は何もしていないって態度で言われたら、俺、わからなくなるじゃん。

「香湖、怒っているか?」
「そんな、怒るだなんてっ」
「なら、いいだろ」
「はい…」

…って、あれ、俺なんか、丸めこまれたような…?

「ま、香湖は俺が守から」
そんな顔をするな、と河野さんは俺の頬に触れた。

「だから、泣くな」
困った顔をして河野さんは「安心しろ」なんて言ってくれる。

もう、噂なんてどうでもいい。そんなもの、俺には関係ない。
結局のところ、噂はあくまで噂だ。
河野さんが俺のことちゃんと信じてくれて、一緒にいられるだけで、俺は幸せだ…。





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