青春ってこれなのか?




=乃木side=


羽場の家についたら、俺は引き戸をたたいた。
古い木製の引き戸はガタガタと壊れそうな音を立てる。

すりガラスのむこうに、人影が見えたかと思えば、
申し訳なさそうに扉を開いて、羽場は俺を見上げた。

「ごめん…」

遅くに、と羽場は言う。


「今さらだろ」

俺はそう言って、勝手に家の中に入った。
相変わらず、狭くて、綺麗だとは言えない。

明かりも薄くて、こんなところに一人だとか、心細いだろうなって思った。


「ごめん、汚いだろ」

羽場は苦笑した。


「いや、気にならない」

「そか…」

「羽場」

「何?」

「それは俺が聞きたいんだけど…どうしたんだ、電話」

いつも自分でも思うけど、さ、どうしてこんなにも冷たい言葉使いなんだろうな。俺。

天野のように、市原のように、もっと親しみや思いやりがそこにあればいいのに。


「乃木ぃ」


「え、ちょ、わ、羽場!」

いきなり抱きついてきた羽場に俺は困惑した。

どうしたらいいのか、わからなかった。
誰か、教えてくれ。

じゃないと、俺はわからない。


「乃木、俺、わからないんだ」

「は?」

わからないのは俺の方だと、反論した。

すると、羽場は「乃木もわからないの」と至近距離で俺を見上げる。

俺の中で何かが壊れた音がした。


「乃木?」

戸惑う羽場の顔も何処か遠くに見えた。

俺は羽場の体を思いっきり抑えると、そのまま、キスをした。


ただキスをした。


羽場はただ固まっていた。







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