遅いとか言いながら




市原を俺の部屋に通して、オレンジジュースを並べた。

「僕、お父さんと、仲直りしたんだ」

ありがとう、と市原はほほ笑む。
俺はそれが嬉しかった。

だけど、それを寂しいと感じた。


「よかったじゃん。でも、どうして、ここに来たんだ? 仲直りしたんだったら、お父さんと一緒にいたらいいのに」

オレンジジュースを手に持って、何でもないふりをして、聞く。

それでも、俺の手は震えていた。


馬鹿じゃないのか。


別に市原がお父さんと仲直りしようとしないと、俺たちの関係がどうなるってわけでもないのに。

ないのに…遠くに感じて…


「そうだよね、でも、僕たちにはまだ時間がいると思うんだ。お父さんにしても、僕にしても、時間がいるかな。うん、まだ、仲直りしたからって、一緒にいられないかな、複雑なんだ、ちょっと、ね」

「どうして、仲直りしたのに?」

「うん、仲直りはしたけど、ね」

「まだ、何かあるのか? だったら、俺、出来る範囲だったら、協力するし、相談にだって乗るよ!」

俺は必死になって市原の肩をつかんだ。
市原は泣き出しそうな顔をして、首を横にふる。

「違うんだ。何もない。ただ、僕もお父さんも、自分が許せないだけだから、大丈夫」

ただそれだけだから、いつか時間が解決すると思うし、今はちょっとね、と市原はつぶやいた。

俺は、なんて言っていいのか、わからなかった。


「あ、ごめん、こんな話っ」

ハッとしたように市原は謝った。
だけど、俺は首を振る。

「そんなことないよ」

「え?」

「話してくれて嬉しかった。不謹慎だけど、本当に不謹慎だけど、こうして、俺に、話してくれるのが嬉しい。俺、何もできなくても頼られたい。市原のこと、たくさん、知りたいんだ」


「…天野くん、優しすぎるよ」


勘違いする、と市原は言った。

俺はそれが何を意味するのかわからなかった。
ただ、顔を赤らめている市原が可愛いと言うこと以外は…






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