下校は命懸け
「お久しぶりです」
市原は礼儀正しく、俺の母に頭を下げた。
「いえいえ、うちの馬鹿をよろしくお願いいたしますね」
「いえ、そんな、僕こそ、いつもお世話になってます」
「…お世話に」
母はそう繰り返して、黙々と考え込んでいた。
「?」
市原はそんな母に首をかしげていた。
「ちょっと、幹也くん、待っててね」
母はそう言って、俺の手を引いて、こっそりと、
「お世話になっているって、あんた、まだ何もしてないでしょ?」
何かあったの?
と母は聞いてくる。
俺は「友達だから」と言った。
「翼、頑張りなさいね」
「いや、頑張るも何も」
「違うわよ、進展しろって言ってるんじゃないの。間違いを起こさないでねって言っているの」
「……気をつけてます」
「本当によ、本当。私は同性愛とか平気だけど、ダメな人も多いんだから。それに、手を出したら友情は終わるわよ。さっきだって、あのまま私が声をかけなかったら、あんんた絶対にキスしてたわよ」
「それは…否定できない…」
「でしょ。わかったなら、気をつけるのよ」
「わかっている」
「わかっているって言ってもそれは頭がでしょ、心はいつも理性を無視するわ。それに気をつけてって」
「わかった」
俺は、とても理解ある、母の言葉に不安を覚えた。
これからも、俺は平常心が保てるだろうか。
それが限りなく心配だ。
それにそれに、
市原が日に日に可愛くなってしまって、
俺はどうしたらいいのか、
わからないんだ。
そう、これから下校は命懸け。
二人っきりの道でも俺は俺でいられますように。
[*前] | [次#]
目次に戻る→