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「俺、市原から、さっき、聞いたんです。市原…じゃなくて、幹也くん言ってましたよ」
「え?」
「お父さんが必死になるものの中に入ってみたいと思った、と」
「必死って…」
「何があったかは知らないですけど、幹也くんは、本当に貴方を嫌っているわけじゃないと思いますよ。ただ、どうふるまったらいいのか、わからないだけで」
ね、似てると思いませんか、親子で。
そう言いながら天野はホワイトボードに背中を預けた。
「俺、実は、帰宅部は、幹也くんに、楽しんでほしくて、作ろうと思ったんです」
「幹也に…?」
「そうです。いつも、幹也くんは何かに縛われているみたいだった。なんていうのか、自由を知らないような感じだったんです。だから、俺なら、これならできるんじゃないかって思って帰宅部を作ろうとしたんです。でも…そんなものよりも、大切なことがあったのかもしれません」
「大切?」
「形じゃないのかもしれません。明確なものにしてしまうこともないのかもしれません」
「どういう」
「俺がそう言った箱を作ってそこに市原を入れてしまうのは間違っていたんだと思います。俺が市原にとってそれが幸せだとか決めても、それが本当に市原の求めるものとは限らないんです。それに何よりも、俺はやっぱり幸せだとか感じるのは、自ら進んでするものだと思うんですよね。最近ずっと忘れてました」
馬鹿みたいでしょ、と天野は悲しそうに笑う。
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