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しばらくして、帰宅部というものを天野が作りたいと言った。
その前向きな姿勢がきらきらしていて、俺の気持ちは揺れた。
それがまた嫌だった。
怖かった。
どうしてそんなにも傷つくことも恐れないのだろう。
若さゆえのものなのだろうか。
考えてもわからなかった。
ただ、幹也が天野と仲がいいことに気がついた。
いつの間にか、羽場も、そんな二人と仲がいいことに気がついた。
俺は、恐れた。

*****

だから、気に食わないんだ。
俺は正直にお前が嫌いだと天野に言った。
保健室ではじめて俺たちが顔を合わせた時だった。
天野は俺の言葉に泣き出しそうな顔をしながら、
それでも帰宅部を作りたいんだと言った。
悲しくなった。
あまりにも天野は真剣だった。
俺は自分が傷つきたくないからと
感情を捨ててきたのに、
そのせいで自分が空っぽだと気がついた。
それがあまりにも悲しかった。
また
天野に負けた気がして
俺は、嫉妬した。
その時も天野は意思を変えずに語った。
市原に……幹也くんに、笑ったほしいんです。
楽しいことは自分の手で作れるものだと知ってほしいんです。
俺はそれを横で叶えたい。
お父さんなら、わかってくれませんか?
と、まっすぐに俺を見つめて、涙を流す。
俺は馬鹿らしいと言った。
そうやって希望ばかりを見るのはよくないことだと天野に言った。
夢を見すぎた人間はね、まともに生きていけない辛さを、いつか知るんだ。
俺は天野の言うことを否定した。
否定しかできなかった。
理想は怖い。
それだけはぐちゃぐちゃした俺の気持ちの中でくっきりとしていることだった。






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