=植木side=


俺に守るものなんて何もない。
ただずっと自分の体裁は守ってきたけど。

今回の話は別だ。

市原が好きだからとか、全く関係ないとは言いきれないが、

あんまりな話だった。

天野から聞いた話になるが、
校長は天野が気に入れないらしい。

理由までは詳しくはわからない。

わからないが、あまりにも何でもこなすのが気に食わないと言われたと天野が言っていた。


「じゃあ、天野、また後で」

俺は華麗に相談室を出た。
するとそこには羽場がまるでドラマのワンシーンのように立っていた。

どうやら、俺を待っていたみたいだ。

俺はそんな勝手な仮説を疑いもせずに、羽場の胸元をつかむと、天野がいたとなりの相談室に連れ込んだ。


「痛いって、植木先生」

羽場は不満そうに俺を睨んだ。

「当たり前だろ、俺はやさしくなんてしてない」

俺が優しくするのは市原と天野くらいだ。

「で、何の用だったわけ。勝手に立ち聞きするとか、最低だよ?」

「……その」

「何?」

出来る限り俺はやさしい声を出した。
羽場は言いにくそうに口を開いた。


「俺、入学早々に事件を起こしたの知ってる?」


「ああ、知っているも何も有名な話だ」

猫のために他校の生徒をぼっこぼっこにした小さい男の子。
実際に俺も羽場を見たときは驚いたな。

「こんなにも小さくて細いのがよくもあんなにも派手にやったよなって、職員室ざわねいていたんだから」

俺は羽場の腕をつかんだ。
下手をしたら市原のよりも羽場の方が華奢なのかもしれない。

「うっさい」

「本当のことだろ」

「そうだけど…」

羽場はそう言って、自分の腕を自分でつかんだ。

そして落胆したような顔をする。

「気にしてたのか?」


「気にしてない!」






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