何、男相手にこんな気持ちになるんだろう。

今はそんなことよりも市原の心配をするべきだ、なのに、そのまま押し倒したいと考えた。

望んでません、望んでません。
そんな野蛮なことがしたいわけじゃないんですよ。


「ごめん、泣かないでくれよ…泣かしたかったんじゃないんだ…。もっとちゃんとしてから言いたかったんだ。ありがとうって。でも、もう、今でも伝えたくなって、今、伝えたりして…」

「違うよ、違うんだ」

市原は必死になって首を横に振った。


「天野くんは、覚えていないって、僕だけが覚えているのかなって思っていて…だから、嬉しくて…」

「市原、俺ね…」

「何?」

「俺ね、もう、我がまま言わないから、さ…そばにいてほしいんだ。友達で、いてほしいんだ」

「天野くん…泣いてる…?」

心配そうな声で市原が振りかえろうとした。
俺はそれが嫌で強く市原を抱きしめた。

泣いているだなんて。

市原にはそんな俺、見られたくなかった。
知られたくなかった。

「いやだな、泣くわけないじゃん」

声が震える。

これじゃあ、否定しても意味がない。


「でも…」


「泣いていないよ、そういうことにしてくれ…」

俺は泣いていないと言いきった。
嘘ばっかり…

なのに、市原は「う、うん」と頷いてくれた。

俺が泣いていないという、そういうことに、してくれた。


「ありがとう、市原」

本当に、ありがとう。
もう少ししたら、いつも通りの俺に戻るから。






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