望んでません、望んでません
…………
……
俺の目が覚めると、市原は意識を取り戻して、俺の勉強机の前に立っていた。
ほほ笑んでいるような、泣いているような顔をして…
「市原?」
俺は心配になって声をかけた。
「え?」
「おはよう…」
俺はまだ眠たい視界のなかで、市原に近づく。
やっぱり何処か元気がないみたいだった。
「あ、それ、入学式の」
不器用に笑う市原と満面に笑っている俺の写真が市原の目線にあった。
その写真は、入学式の日に俺が迷子になって、
市原が、優しい言葉をかけて助けてくれた時の記念の一枚。
俺にとって市原が特別になった日の。
「…本当はもっとちゃんとしてから言いたかったんだけど」
今、どうしようもなく、言葉にして伝えたくなった。
だから、俺は我慢できずに言葉にしてしまう。
「市原、この日はね、ありがとう。困っていたから、嬉しかった。ニコニコ笑って、優しい言葉もかけてくれて。俺ね、ずっとお礼も言えなかったけど、ずっと忘れたことなんてなかった…よ?」
何か辛いことがあったら、その写真を見て、元気を出していた。
これは恥ずかしいから、伝えないけど。
「え?」
「わ、何、ごめん、市原!」
ぽろぽろと涙を流す市原に俺は焦る。
「…っ!」
そして、思わず抱き締めてしまった。
華奢な体がちょっと柔らかくて、どきどきする。
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