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「市原?」
「え?」
「おはよう…」
半分以上、寝ているような顔をして、天野くんが僕の後ろに立っていた。
僕は急に恥ずかしくなった。
じろじろと人の写真を見ているだなんて…
「あ、それ、入学式の」
まだまだ寝ぼけている目で天野くんは僕に持たれるように、写真立てを手にした。
「…本当はもっとちゃんとしてから言いたかったんだけど、市原、この日はね、ありがとう。困っていたから、嬉しかった。ニコニコ笑って、優しい言葉もかけてくれて。俺ね、ずっとお礼も言えなかったけど、ずっと忘れたことなんてなかった…よ?」
「え?」
天野くんは、覚えていないと思っていた。
だから、涙腺にくる。
「わ、何、ごめん、市原!」
「…ぇ?」
急に天野くんに後ろから抱きしめられて、体が強張った。
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