目をさまして下さい
「でも、幹也は可愛いが、変な気を起さないでくれよ」
校長はコーヒーを作りながらそう言った。
「大丈夫ですよ、俺、市原のことが好きですから、そんなことしませんよ」
「好きなのか…?」
急にポットから手を放すと校長は振りかえった。
「はい、そうですよ」
天野は何をあたり前のことを聞くんだこの人って顔をしている。
校長はそんな天野を見て笑った。
「わりぃ勘違いした」
「いえ、そんなお構いなく!」
「……」
正直、俺には今の状況がわからない。
なんで、三人で机を囲っているんだそうか?
校長の淹れたコーヒー飲んでいるんだろうか、俺。
いや、これ、おいしいけど…
「君は、大丈夫だよな!」
「は、はいぃ!」
急にすごい勢いで話を振られて、俺は驚いた。
校長はそんな俺をじっと見つめて、不審な顔をした。
「まさか…」
「違いますよ、校長、乃木は、そんな奴じゃないです。いい奴なんです。俺のこと大切にしてくれたんです。だから、乃木はそんなことしません。乃木はとてもとてもいい奴なんです。ちょっと顔は怖いけど、心はとっともいい人なんですよ!」
自己陶酔するかのように、天野はそう言った。
俺はそんなにも真っ向から人に自分のことをいいように言ってもらえたのは、はじめてで、ドキッとした。
「なら、いいんだが」
校長はそう言って、コーヒーにお湯を注いだ。
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