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=羽場side=
追いつめられてやってしまった。
眠りこくっている天野なんか、市原に見せたくないと思ったら、
いつの間にか、俺が市原の肩を抱いて廊下にいるという、この結末。
俺はこれからどうしたらいいんだ。
俺に抱かれた肩を外せずに、困っている市原が可愛くてしかたないが、今はこの先のことを考えないといけない。
何か、何か、ないのか、俺。
「えーと、市原、相談があるんだ…」
最低だとしてもいいや。
同情でもいいや。
俺は市原が食いつきそうな話をする。
「それで、市原に、聞いてほしくて…なんて、迷惑だったかな…」
ごめんね、と俺はここで市原の肩から手を放した。
我ながら、グッドタイミングだと思う。
「ま、市原の顔を見たら、元気出たし、ありがとう」
じゃあな、と俺はそこで逃げようとした。
でまかせだとして、市原の同情を引こうとしたとして、俺には結論的に言うと、話せる悩み事なんてないし、今すぐに何か作り話ができるほどに頭の回転はよくない。
しかし、
「羽場くん、僕、何もできないかもしれないけど、話を聞くことはできるよ!」
少しでも力になりたいんだよ、と市原を俺のカーディガンの裾をつかんだ。
「だから、聞かせて」
うるうるとした瞳で俺を必死で見つめる市原。
俺はもう、それが愛おしくて、しかたなくて、しばらく、固まってしまった。
いな、世界中の時間がこの時は止まっていたんだと思う。
絶対。
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