そっちはダメだ…ろ?
………え?
「なんて?」
俺の聞き間違い?
俺も頭おかしいのか?
もうダメなのか?
「だから、付き合ってほしいんだ」
「は?」
「そりゃぁ急にこんなこと言われても困るよな…でも、俺…」
「待て待て」
おかしいだろ。
お前が好きなのは市原だろ。
なんで、また俺にそんなことを言うんだ。
意味がわからない。
「ちゃんとゆっくりと考え直せ!」
な? と俺は言ってやった。
すると天野は深刻な顔をして
「俺、あの時はじめて乃木と知り合ってからずっと、乃木しか…って思っていて」
「ちょっと、天野、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないよ、乃木が返事をくれるまで、俺…」
しゅんとなって天野は言葉を紡ぐ。
「俺…」
「天野?」
「俺、乃木に…っ」
ばっと顔をあげたかと思えば、涙をぽろぽろと流していた。
天野はそれさえもかまわないといった感じで、俺を見つめた。
「本当は俺、一人でしたかったんだけど、俺の力じゃ足りないんだ、だから、手伝ってほしいとかそんな、都合のいいこと言うなって感じかもしれないが、協力してほしんだ。乃木なら、頭のいいし、力もあるし、適任だと思ったんだ」
……あ、なるほど。
俺の勘違いか…
「しかたないな」
「本当か?」
天野は嬉しそうに俺の手を握ると笑った。
基本的にこいつはきれいな顔をしているから、その笑顔のたちの悪さと言ったら、他にない。
俺はすこしだけ、ドキッとした。
不覚。
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