世の中がどうしたと言うんですか?
「こら、天野、誤解されるぞ?」
相談室の中から、植木先生が出てきた。
「は、植木先生、話の途中ですみません」
「そうだ、今、大切な話の途中だったろ?」
少し不機嫌に、植木先生は俺を睨んだ。
さっきの真城と同じような、睨みだった。
「ま、いいや。市原も、入りなよ」
急に、穏やかに笑うと植木先生は市原の腕を取った。
俺はその手を払った。
「!」
無意識だった。
どうして、俺は……
「あ、すみません、手が滑ったみたいで」
俺は植木先生に謝った。
すると植木先生は静かに笑った。
「天野、悪いことは言わないから、そう言った感情は捨てたほうがいい」
「え?」
俺は植木先生が何を言っているのか、意味がわからなかった。
「世の中、そういったのはよくないと俺は思うんだ」
「なんのことですか?」
「何って、気づいていないのか?」
「えと…?」
俺は真剣な顔をして言葉を紡ぐ植木先生に首をかしげる。
本当に先生が何を言いたいのか、わからない。
感情…そういったこと…気づいていない…なんのことだか、さっぱりだ。
さっぱりだけど、
物悲しい気持ちになった。
「世の中がどうしたと言うんですか?」
「え?」
「植木先生、天野くんは天野くんの考えを持っていて僕はいいと思います」
市原は俺と植木先生の間に立つと、まるで俺をかばうかのように、そう言った。
俺は、それが、嬉しくて、どうにかなってしまいそうだった。
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