しかし、俺が市原と二人っきりで夢を見ていたのもつかの間だった。

すぐそこの相談室から天野が出てきて、市原はそっちへと小走りした。


「お疲れ様…」

おどおどと市原はそう言って天野に話しかける。


「昨日はその、ごめん」

勢いよく市原は天野に頭を下げた。


「え?」

天野は泣き出しそうな顔をして、市原を見つめた。


「市原、そんな、俺のほうが悪いんだ。ごめん。なんか、その、市原が羽場に取れられてしまうような気がして…なんてな、ガキだなぁ」

あはは…と力なく天野は笑う。
市原は普段の市原からは想像もできないような顔をして、

何も言わずに、俯いて、

天野の服の裾を引っ張った。


俺から見ても、市原が泣いているであろうことは安易に想像できた。

……俺なら、抱きしめてやるのに。

なのに、なのに、
天野は、何も言わず、ただ市原を見つめていた。






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