どんなに頑張っても埋まらない
=丹羽side=
気付いたんです。
俺がしてきたことは、酷いことだと。
わかったんです。
俺はあなたを傷つけたいわけではないと。
本当に好きなんです。
ですから、もう少し前に進みたいと願ってしまったんです。
最悪です。
いまさら気付いても遅い。
俺は取り返しのつかないことをしてしまったんだと思いました。
「俺、部長の気持ちなんて考えもしなかった。自分のことばかりで……」
涙さえ、でません。
俺は被害者ではありません。
あなたを傷つけた加害者です。
悲しむべき存在でもありません。
「神崎課長」
俺は隣にいる宿敵に呼びかけました。
そうです。
いつまでも、このままでは、いられないですから。
「何? 俺、今、傷心してるんだけど」
課長はぶつぶつとそう言いました。
「それはお互い様です」
俺だって傷心しています。
「ですが、このままじゃダメです。戻りましょう。取り返しはつかなくても、もう一度、昔のようになりましょうよ?」
「は?」
「課長。俺、部長には笑っていてほしいんです」
真剣な話でした。
「丹羽。それ、マジで言ってんの?」
「はい」
自分でも信じられないくらい、マジでした。
「馬鹿みたいですか?」
「悪くないんじゃないの?」
「本当ですか?」
「なんで、ここで俺が嘘つくんだよ」
「へへへっ」
「………丹羽。笑うと可愛いな」
「は、はい?」
「だから、可愛いなって」
「嬉しくないです」
「ふーん」
………なんか、負けた気がしました。
別に勝負なんてしてないんですが。
「じゃ、帰ろうか。丹羽」
「はい」
「ま、休戦なんだから、抜け駆けはなしだからな」
「わかってますよ。ですが、部長が俺を求めたら話は別ですからね」
「そっか。じゃあ、俺も同じ条件だな」
よし。それとなく、頑張ってみるわ。
そう言いながら、課長は笑いました。
「……あ、そう言えば課長。今日はいいもの見せて頂きました」
「は?」
「ソーセージですよ。太くて反り返ったやつですよ」
「ああ。あれか。そそるよな」
うっとりとした課長の呟き。ですが、課長は淋しそうな笑顔でした。
「ですね」
俺はただ頷きました。
あの時、俺は気付いたんです。
たぶん課長もそうでしょう。
どんなに頑張っても埋まらない。
部長は意識していなかったんです。
反り返った太いソーセージに、反応してしまうのは俺や課長みたいな奴だけです。
部長はいたって男をそういう風に意識してなかった。
ただ、それだけでした。
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