何がしたいんだ!
家に帰ると母が待っていた。
どうやら、学校から、電話があったらしい。
俺はリビングで母と向き合う。
この瞬間が世界でいちばん嫌い。
だって…
「翼…馬鹿なことはやめて」
「……」
俺は頷けなかった。
「余計なことなんてしないで。翼はちゃんとしていたら、なんだってできる子なんだから。普通にしていてよ」
母は俺にそう言って、同意を求めてきた。
俺は首をふった。
はじめて、親の意見に反対した。
俺は何もできない。できていない。
「ごめん。俺、どうしても、これだけは譲れない」
「どうして?」
「俺、何にもできないんだ。でも、できないなりに、頑張りたいんだ。母さん」
「え…、それって、翼のため? 誰かのため?」
「両方」
俺は君に自由を教えてあげたい。
君に心から、笑って欲しい。
でも、これは自分勝手なわがままに等しい。
だから、これは、
「いや、俺の独りよがりなんだけど、どうしても、どうしても」
俺は母に話した。
市原のことを、話した。
入学式の日。
迷子になった俺に、優しい言葉をかけてくれた存在で、
今も、俺のことを心配してくれる存在で、
大切にしてやりたい存在なんだと。
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