嘘つくな!
「植木先生。それは…」
昨日の今日で、俺が帰宅部の顧問なんていうのをするということが周りに広まっていた。
口々に、そう、やめておけとか、そんな顔をされた。
俺は、
「天野はああ見えていい奴なんですよ」
だから、協力してあげたいんです。
と、言っておいた。
だいたいそうしていれば、しかたないな、という感じで、みんなは納得してくれたのだが、一人、変人がいたことを俺は忘れていた。
「植木、俺、副顧問がしたい」
新藤は真顔で言ってくる。
こいつの目的がわかっている俺としては断りたいところだが、しかたないことに、顧問は二人いた方がいいらしい。
部活発足に関しては。
「しかたないから、いいけど、さ」
「大丈夫だって、俺は傷つけたりしないし。見ているだけでも幸せだし。うん。邪魔もしないから」
ウインクしながら新藤は俺の肩をたたいた。
先行きが心配になる。
新藤って基本的に何を考えているのかわからないから、俺、苦手なんだよな。
ただ、同類だってことはお互いにわかっていることなんだろうけどさ。
え、ああ。
同性愛者ってことかな。
今じゃ、お互いに市原が好きなわけだし。
ああ。お好みまで一緒だとは…
実に信じ堅い。
「本当に、見ているだけなんだろうな?」
俺は再度確認をした。
何かあってからでは遅いからだ。
「当たり前じゃん。」
新藤は気持ちのいい返事をしてきた。
俺は、その笑顔に、確信をもった。
こいつは俺なんかと違って、何が何でも市原がほしいってわけじゃないんだと。
そうだ、言うのであれば、市原のことを見ていられる、それだけで幸せになれる人種なんだと。
ああ、俺ってひどい奴だ。
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