「乃木ぃ」

俺は乃木を見つめた。
中学からの友達なんだ。
こいつ。

それに乃木なら、こんな俺のことを叱ってくれるだろうと思った。
乃木なら、きっと、上手くこの感情から逃げる方法を知っているんじゃないかと俺は思った。
だって、乃木は頭いいもん。
俺なんかよりもずっとずっと。

でも、

「俺も、好きだから…」

乃木はそう言った。
俺は何の事かわからず首を傾げていた。
すると、

「俺も、市原、好きだから」

そう言いやがった。

あの、物静かな乃木くんが淡々と、顔を赤らめて。


「いや、俺はそんなんじゃないし」

俺はなんでだろう。
否定した。
だって、言えるかよ。
男の俺が、男の市原が好きだとか、おかしいだろ?

「俺は別に、そんなんじゃ…」

ない。
そう言おうとしたんだけど、口がどもった。
言えなかった。

駄目だった。


やばい、やばいよ。
どうしてこんなにも市原が気になるんだよ。
だって、別にあいつと仲がいいわけでもなんでもないし。

俺はただ天野をおちょくりたかっただけなのに。

だけなのに。


「乃木、俺…」

「言うな。わかってんから」

だから、協力しろよ。
乃木はそう言った。

俺はわけがわからないままに頷いていた。

逆らったら、後が怖そうだったからだ。





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