全然、ガキだから?
=小池side=
「うわぁーっ」
店を出て思いっきりのびた。
午後もまたお堅い部長になるんだよな。
辛いわ。
いや、心からしっかり意識しないと。
「よし」
俺は自分に気合いを入れた。
「小池。いつもそれ…可愛いっ」
「へ?」
「あ、ダメダメ。素に戻ってる」
「あ、しまった」
言ってるそばから。
ダメだ。俺。いつまで、こんな…
こんな自分、嫌いだぁ。
「……小池?」
心配そうに神崎が俺を覗き込んだ時。
「小池部長っ!」と丹羽の声がした。
まさか、と思う暇もなく、俺は振り返る。
「て、え、に、丹羽?」
本当に、いた。
どうしたらいいんだろう。
いや、別に気にすることじゃない。
俺は悪くない。
昨日のあれは丹羽が悪い。
だから、俺が気にすることはない。
こいつはただのかわいい部下だ。
そうだ。それでいい。
「丹羽。もうすぐ昼休みも終わるから、用がないなら、持ち場に帰りなさい」
いつもどおりの俺になればいい。
忘れたら、いい。
必要ないことなんだから。
「……小池部長。俺、昨日のことは謝ります。ですが、俺、小池部長に忘れて、ほしいわけじゃないです」
「な、からかうなっ!」
「ガチです!」
「え?」
「本気です。いつも言ってたじゃないですか? 好きだって。愛してますって。なのに…なのに」
………あ。
あれ、冗談じゃなかったのか?
だって、俺、男だし。
おじさんだし。
や、でも、軽く流していたなんて、失礼だったよな。
俺はなんてことをしていたんだろう。
考えてみたら、わかることだったはずなに。
……どうしよう。
「小池」
「はいっ?」
条件反射で振り返る。
あ、神崎がいた。そうだ。
いつでも、神崎は俺のそばにいてくれた。
俺は一人じゃないんだ。
「見ろよ。丹羽くん。小池部長、困ってんだろ?」
「神崎ぃ…」
かばってくれて、ありがとう。
だけど、このままじゃダメだよな。
ちゃんと返事をしないと。
「丹羽。俺……」
お前のことは部下にしか見えない。
ポチタ…に見えないことはないが…。
必死に、俺は、伝えようと、した。
「あのな、俺は」
「そうそう。小池は俺のだから」
「そう。だから……て、え?」
なんかズレてる。
「神崎。こんな時に冗談はよくないぞ」
「いや。ガチで本気」
なんてことだ。
俺は、今まで何を見て信じ生きてきたのだろう。
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