元気を無くしたあなた
屋上に辿りついた時には、もう、僕は心臓バクバクだった。
「あ、わり」
天野くんはただ見つめていた僕の手を放すと謝った。
「なんで?」
僕は尋ねた。
天野くんが謝る理由がわからない。
「なんで、天野くんが謝るの?」
「だって、思いっ切り、無理やり、連れてきただろ」
「そんなことない」
振り払わずにいたのはきっと嫌じゃなかったからだ。
本当は嬉しくて仕方なかった、と言えば、天野くんはどう思うだろうか。
「ありがとう」
僕はただそれだけ言って笑った。
「馬鹿っ!」
「え?」
「あ、何でもない」
「天野くん?」
その日、君は何でもないを繰り返した。
僕はなんだかよくわからなかったけど、幸せだったのかもしれない。
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