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「…あ」
今、部長が、俺のいれたお茶を見て、いやらしい顔した。
そんな顔されたら、俺、
期待しちゃうじゃないですか?
=小池side=
駄目だ。
思い出す。
抑えられない。
溢れていく。
駄目だ。
もう、我慢できない。
………はぁ。
嫌悪感。
トイレに駆け込んだ理由も、
そういったことに勝てなかった自分にも、
腹がたつ。
「すみません」と謝られたことが不意に頭をかすめた。
丹羽はあの時、確かにそう謝った。
謝ったんだから、もう忘れていいや。
そう思うんだが、何度も思い出す。
何度も、あの手を。
感覚を。
馬鹿。
おかしいだろ?
普通ありえないだろ?
あれは犯罪じゃないのか?
なんで、どうして、
俺は思い出す度に、こんなに、
切なくなるのだろ?
馬鹿げてる。
あんなのなんでもない。
なんでもないんだ。
ただ、からかわれただけだ。
きっとそうだ。
あ、あれだ、新手の嫌がらせだ。
あいつきっとなんかの罰ゲームで命令されたんだ。
ああ、それなら納得がいく。
そうだ。
そうに違いない。
だから、あんなにも
落ち込んだ顔していたのかな?
お茶なんかいれたりして。
不器用なくせに。
だけど、
あの時、
真剣な
目をしていた。
いや、俺の勘違いだ。
怖いと感じたから、そう見えたんだ。
そうだ。そうだよ。
なら、もういいじゃないか。
思い出さなくていい。
言い訳めいたことを並べ、俺はズボンをもとに戻すと、トイレの水を流し、手を洗って、神崎のもとへ走った。
もう待ち合わせの時間は過ぎていた。
ほんと、最悪。
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