固定してしまうのはおもしろくない
=弟side=
「なんで、泣くの?」
「だって…」
兄さんは、黙りこんだ。
「なんか、この子の気持ちがわかるから」
「え、この主人公の想い人?」
「あぁ。きっとこいつ、自分を見てほしくて、こういうことしたんだと思う」
そういって兄さんは、主人公が嫉妬するシーンのところをさした。
ヒロインが別の男と仲良くしているシーン。
俺が兄さんを想ってかいたシーン。
「こんなふうに想われたいな」
切ない瞳。物欲しげな瞳。
固定してしまうのはおもしろくない。
兄弟だから、こんな気持ちは間違っているだなんて、決めつけてしまうのも、だ。
正直、もう、これ以上、ただ見ているだけでいたくない。
いたくないんだよ。
「俺、兄さんが好きだよ」
「え?」
「だから、好きだって言ってるの」
そう告げると兄さんはまた泣き出した。
俺は慌てて、冗談だから、とすませようとしたけど
「嘘じゃない?」
そう真剣に聞いてくる兄さんに、
「嘘じゃない」
と言ってしまった。
これでもう後戻りはできない。
覚悟を決めた。
兄さんに軽蔑される覚悟を決めた。
なのに、
「俺も…俺も、好き」
だなんて、弱々しく、俺のなかへすがりついてきた。
あぁ、本当だ。
固定してしまうのはおもしろくなかった。
どんなに嘆いても、
この想いを、
希望を捨てきれずに、
いたから、
俺は今日を迎えれたんだ。
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