朝、出勤して、いつも通りこの椅子に座ろうとした時、俺は昨日のことを思い出してしまった。

静かな部屋。真剣な眼差し。いやらしい音。あの感覚…

ずっと何度もぶり返した。
丹羽を見るたび、どうにかなりそうだった。

あの手。そう、この手が、忘れなれない。

…いや、なんで俺がこんな部下に悩まされなくてはならんのだ。

ありえない。

そうだ。朝から仕事が手につかないなんて、ありえない。

せっかく神崎の笑顔で忘れていたのに。

「ほら、お前も仕事しろよ」

ずっと後ろにいられたら、意識するし。
思い出してしまうし…

「あのですから、お茶を部長に…」

「…?」

「温かいお茶でもどうですか?」

丹羽。
距離をはかっているんだな。
お茶とかいれて。
本当に俺に拒否されないか、確かめているんだ。

なら、ここは、そんなお前がいれたもん飲めっか、というべきだろうか。
いや、いくらなんでも、それは酷い。

俺は考えに考え、ついにめんどくさくなった。

どっちでもいいか。

「…そこに置いといて。後でもらうから。ありがとう」

そっけないな。俺。
いやいや、あんなことされた奴に笑う必要なんてないんだ。

……にしても、しくった。
もっとよく見てからもらうべきだった。

丹羽のいれた茶はかなり痛々しい風貌になっていた。





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