しかたないので片思いしておく
=弘樹side=
「兄貴、これはあんまりだ」
「いやな、兄さんは心を鬼にしたんだよ」
孝が直人先輩にキスをしているところを、兄貴と二人、眺めていた。
ようやく気付いた恋も、これで終わってしまったような気がした。
でも、なんか吹っ切れた気もしたんだ。
「ま、孝が幸せなら、俺はいいけどさ」
しかたないので片思いしておく。
「兄貴、帰ろう。いつまでも覗きはいけない」
「そう、だな」
「何、兄貴が泣いてんの?」
ぼろぼろ涙を流す、この馬鹿兄貴が少し可愛くて、俺は背中を叩いてやった。
「だって…」
ただ、兄貴はそう言うと、すぐに「なんでもないから」と笑ったのだった。
いつも通りの笑顔だった。
「うん。しかたないので片思いしておく」
「兄貴は健気だなー」
「え、ちょ、弘樹もそうじゃん」
てかてか、誰に向かって健気とか言いますか? と、兄貴は俺の肩をゆすった。
それが少しだけ温かくて心地よくて。
今悲しいのは俺だけじゃないんだって思えた。
ただそれだけのことが、何よりも愛おしく、また、愉快だった。
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