5
「放して…、孝」
「どうして?」
俺は聞いた。
「俺、孝に優しくしてもらう権利ない」
直人は答えた。
「権利?」
俺は聞き返した。
しばらく、直人は黙ったままだったけれど、
俺は直人の言葉をただ待った。
「俺、生きている価値さえ、ないもん」
「そんなことないだろ?」
俺は問いかけた。
「孝に、俺の何がわかるんだよ!」
直人は怒鳴った。
「孝は何も知らない。知らないから、そんなことが言えるんだよっ」
「……俺は、直人が好きなんだ、だから」
「だったら」
直人は悲痛な顔をした。
「死んでよ。俺のために」
そんなに好きなら、死んで見せてよ。
そしたら、信じてもいい。
直人は壊れてしまいそうな目で、
俺を見上げた。
孤独な光が揺れていた。
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