=孝side=


「それで、あんなにも…」

細かいことまではわからない。

だけど、なんとなくの事情は呑み込めた気がした。

「ま、俺もよくはしらないんだけどね」

岸和田さんはそう言って淋しそうに笑った。

「でも、よろしく頼んだよ」

「え?」

「だから、直人、これ以上、泣かさないでくれって」

すねた子どもみたいに岸和田さんはそう言ってくれた。


正直、嬉しかった。


だけど、俺は「あんたに言われなくても」としか言えなかった。


「たしかにな」


岸和田さんは、馬鹿らしいな、とまた笑った。




昔、男の人に「好き」だと囁かれ、存在意義を見つけた貴方。
見た目しか見ない男の人に、失望した貴方。


貴方は貴方である必要なんてなく、
つかめない雲のように
気ままに生きていいんだ。


俺がそんな貴方を理解してあげるから。


変わらない誓いも必要なく、

信じられる温もりさえ、

そこにあればいい。



きっと、もう、これ以上、

傷つかなくて、


いい。




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