触れないで
=直人side=
幸せはまだ怖い。
いつか、壊れてしまうのではないかと、震えている。
俺はどうしようもない臆病ものだった。
「ひきずるつもりはないんだけどな」
昔、好きだった人を思い出す。
「好きだよ」と言ってくれたあの人。
誰からも必要とされない俺なんかを必要としてくれた人。
何度も何度も一緒に寝た人。
「若かったな」
嫌われたくない。好かれたい。
ただ一心で、尽くした。
あなたの望むように、俺は。
だけど、愛を感じられなくなった。
体しか求められていない気がした。
それは、俺である必要なんて
ない気がした。
触れないで。
本当に好きでもないのに、
誤解していた。
あなたは俺に何を見ていたのだろうか?
あなたは俺のことなんて、愛していなかった。
あなたは俺という人形遊びを愛していただけだ。
そして、
自分を傷つけない優しい俺が好きだったんだ。
何も知らないくせに。
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