=岸和田side=


いらないものだと思っていた。

優しさなんて、気持ち悪いだけだと思っていた。

なのに、なのに、俺は見つけてしまった。

直人の瞳のなかに。


「岸和田?」

「え?」

「何、ボケっとしてんの?」

直人が首を傾げた。

「いや、別に、何でもないよ」

「そう?」

「そう」

お昼休み、いつも通り、俺達は食堂にいた。


「そういえば、昨日は大丈夫だった?」

俺はさりげなく質問したつもりだ。
だが、

「え?」

と、直人は意外そうに、俺を見つめた。

はじめてだったかもしれない。
俺は、直人自身のことは、極力、聞いたりはしなかったから。


「ああ、平気」

淡々と直人は答えてくれた。

「なら、よかった」

「うん」

ほんのわずかにほほ笑んだ直人が愛おしいと思った。


どうして今まで、
こうして気になったこと、思った事を、
はっきりと、直人に伝えたりしなかったのだろう。

聞いてしまえば困らせてしまうだとか、
迷惑だとか、

どうして、考えたんだろう。


優しさなんて、気持ち悪いと思っていた。


だけど、君にこうして、向けている分には、
温かくて、気持ちいいものだった。


たとえ、君の今の笑顔が、
あの一年坊主にむいていても


俺は俺なりに、
直人を好きでいようと思った。



それでも馬鹿みたいに幸せだと感じた。





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