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ただ、あの時、君がほしいと思ってしまった。
理性を忘れてしまいそうで、無防備な顔が怖くて、
逃げた。
だから、俺はそれをちゃんと話して、直人に謝った。
直人は不思議そうな顔をして、
『それならいいんだけど』
と言った。
だから、俺は『もとめてもいいの?』とさりげなく直人に触れようとしたが、
どうやら直人のほうが上手だったみたいだ。
うまいことかわされてしまった。
『でも…』
気になることがあった。
直人が今朝、起きた時、確認していた封筒にはお金が入っていたんだ。
あれがなんなのかとても気になった。
直人が中身を確認していた時の、あの、静けさが忘れられない。
だけど、俺は聞きかけて、やめた。
今はまだ、聞いてはいけない気がした。
見られたくないことだったのかもしれない。
知られたくないことだったのかもしれない。
なら、無理やり踏み込んでしまうのは間違っている。
いつか、君から話してくれる日を、待とう。
あせらずにぼちぼちやっていけばいい。
そう、
俺はそれでいいと、
思っていた。
それが後に悲劇を招くとも知らずに。
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