雰囲気なんてあったものじゃない
=孝side=
雨の音がする。
直人の体温を感じる。
ねぎの香りがすべてを破壊しているようだった。
雰囲気なんてあったもんじゃない。
「ありがとう」
俺は直人を好きになれて幸せかもしれない。
「なんで、何が?」
不思議そうに尋ねてくる直人に俺は笑いかけた。
久しぶりだった。
こうして、近くで、孤独に光る君の瞳を見つめるのは。
「俺、直人に出会えてよかった。ありがとう。出会ってくれて」
「……べつに」
俺の腕をそっと抜けて、直人は瞳をそらした。
「お前が言うことじゃないだろ?」
「え?」
「俺を見つけたのは、孝だよ?」
「……それはそうだな。でもさ」
違うんだよ。
俺にちゃんと出会ってくれたのは、
直人だけだよ。
[*前] | [次#]
目次に戻る→