理想は勝手だから嫌い
理想は勝手だから、嫌い。
膨らんでいくから、怖い。
「岸和田。なんで、岸和田は何も言わないの?」
「え?」
お昼休み。
食堂で問い掛けた。
「だって、聞いたんじゃないのかなって」
「なな何を?」
「ほら、弟くん。俺と同じ中学だったから」
「あの噂のこと?」
「どの噂かはわからないけど。俺ってそういう奴なんだよ。この前は、親友だって言ってくれて嬉しかった。だけど、俺、は」
「馬鹿」
「いたっ」
岸和田は俺の頭を小突いた。
地味に痛かった。
「…過去は過去だし。俺、よくわからないけど、信じてないし。俺は今ここにいる直人しかわらないから」
「岸和田」
俺は岸和田の瞳を見上げた。
岸和田はふんわり笑った。
「いつまでも、頑ななんだよ。直人は」
「あ、いたっ」
ぱちんっ
思いっきりデコピンをくらう。
「ふ…っ」
「何がおかしいんだよっ?」
俺はまだ痛いおでこを両手でおさえながら、問い掛けた。
岸和田は、何も言わず、ただ笑っていた。
よくわからなかった。
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