「うう、う嘘っ? ななっなんで?」

「さぁ、理由までは知らないけど。な、兄貴は見たことあるよな? 直人先輩、たまに、すごい淋しそうな顔するだろ? 俺はさ、だから、じゃないかなって思うんだ」

「だからって?」

「うん。構いたくなるだろ? あれ」

…………ああ。
あの顔ね。確かにあれは惹かれる。

「て、兄貴。見たことない? てか、兄貴は違うの?」

「違うって、何が?」

「いや、俺、兄貴も直人先輩が好きなんだと思っていたから、さ」

「馬鹿。親友だよ」

そうだ。ずっと親友。
約束までしたじゃないか。
何が不満なんだ。

ずっと君のとなりにいれるのに…

俺はなんて馬鹿なんだろう。

「ふーん。そうは見えないけど?」

「……弘樹。お前、たくましいよな。普通はさ、普通は」

「普通は、ありえない、と言うべきかな? おかしいと思うべきかな?」

「ああ、それで正しいはずなんだよ?」

「そっか。くだんない。だったらさ、くだんないよ。普通なんて」

「……弘樹?」

「あれ? 兄貴、気付いてないの?」

何に?

「俺さ、男が好きだよ」

「え?」

「あれ、知らなかった?」

「知らないも何も…」

「そかそか。でも本当なんだ」

十六年、兄弟やってて、はじめて知った。

「一緒だな」

俺もどちらかと言うと、そういった傾向にいる。

「だと、思った。だって、兄貴、親友が男につけられていることに、抵抗無さすぎなんだもん」

あはは、と弘樹は子供みたいに笑った。

「しかも、あいつを見る目、迷惑ってより真剣なんだものっ」

「何がおもしろいんだよ?」

この〜っ!
なんて言いながら、俺は弘樹をはがいじめにした。

「だって、あからさまなんだもん。なんであんなに大切にしてんのって感じでさ」

「弘樹?」

だんだんと大人しくなっていく声に態度に、俺は弟の名前を呼んだ。

「可愛い顔してヒドイこと言うよね?」

「え?」





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