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しかも、孝ってなんなんだよ。
俺ですら、まだ岸和田呼びなくせに。
「な、駅前ってどんな店?」
俺は苦し紛れに聞いてみた。
「甘くて、ピンクでドリーム」
「あ、これです。岸和田先輩」
直人の説明を後押しするように、一年坊主はかわいらしい広告を広げた。
げ、そんな乙女な店、俺はダメだ。
「そか、直人。よかったな。いってらっしゃい」
俺、そんなピンクでドリームなお店、入れないわ。
あわよくば邪魔してやろうと思ったけど、こうも直人好みで、俺の苦手な分野だとしたら話しは別だ。
そして、何より、俺は知っている。
直人は、甘い、可愛いに囲まれると別世界へ旅立つ。
「…っかあ!? 俺、体操服、忘れた。とってくるから、孝、待っててな。あ、岸和田、また明日な」
「え、あ、また明日」
「お気をつけて〜。俺ずっとまってますから」
……………………沈黙。
「帰れば」
「え?」
「お前、帰れよ。それとも、何。邪魔するつもり?」
一年坊主?
いきなりそれはない。
なんで、さっきまで楽しそうにニコニコしてたくせに。
「何、マヌケな顔してんだよ。直人が帰れって言ってんだから、俺達の邪魔するなよ」
ぽっかーん。
世の中、広くて狭い。
こんな猫かぶり、はじめて見た。
「……な、聞きたいんだけど、お前ってさ、あ、遅いですよ。直人先輩〜。早く行きましょう!」
「わり。孝。じゃあまたな岸和田」
「それではまた会いましょうね。岸和田先輩」
「え、あぁ」
並んで、俺から離れていく直人を見つめながら、考えた。
この気持ちはいったい何か。
答えがでるはずもなく、親友を後輩にとられてしまったような気持ちになる。
ああ、淋しいんだ。
きっと……
俺は君の一番だって余裕こいていたから。
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