=岸和田side=

俺の友人は、可愛い。
強がっているところとか、ボケーっとしているところとか…
そりゃあ、もう可愛い。

可愛くて、可愛くて、可愛い。

…………いや、まじで。
まるで猫みたいに可愛いんだから。
気まぐれでさ、本当に気まぐれでさ。

たいていの奴はそんな直人のペースについて行けないらしいが、俺は違う。

「岸和田?」

…………あ、いかん、いかん。
どこか遠くへ思いを馳せていた。

「どうした? 直人」

「いや、なんか、何処かへ逝ってしまったような目をしてたから…。ま、無事なら、いいや。またね」

逝ってしまってた?
いやいや、行くの間違いだよな?

「て、直人、どこ行くの?」

「どこって、駅前の店」

「一人で?」

「いや、二人かな」

「だ、誰と?」

どうか違うと言ってくれ。
ずっとあそこに見える、明らかな変人は幻と言ってくれ。

「直人先輩〜」

あぁ、俺は疲れているんだ。
だから、幻が見えて、幻聴だって聞こえるんだわ。

「……じゃ、岸和田。また」

「ちょ、ま、直人。変なこと聞いてもいいかな?」

俺は直人の学ランの裾をひいた。
格好悪いな…

「う?」

なに? と直人は首を傾げた。

「あれ、見える?」

俺はずっとあそこで「直人先輩〜」なんて言っている一年坊主を指さした。

「うん。見えてるけど? 岸和田、マジで大丈夫なんか? マラソンやりすぎた?」

「………いや」

そんなことよりだ。
そんなことより、まさかさ、まさか、駅前の店とやらに行くのはあいつと一緒なのか?
いや、あまりしつこく聞いたら嫌がるよな……

「直人先輩?」

俺の苦悩なんて、ひょっいと一年坊主は乗り越えてきた。

「いやなんかさ、友人が体調悪いみたいでさ…」

直人?
知り合いなのか?
やっぱり、駅前の店に行くのはそいつと?

俺はとりあえず疑問を押し殺した。

そして、

「岸和田悠斗です」

と自己紹介しながら、一年坊主に右手を差し出した。

「え、ああ、俺は永倉孝と言います」

一年坊主もニッコリと笑って、俺の手を握った。

これは単なる握手だ。

ただ少しばかり、俺達は力んでいるだけで。

「……そういえば、直人先輩。俺、自己紹介まだでしたよね? 永倉孝です」

「永倉って言うんだ。お前」

「そうです。永倉です。気が向いたら、孝って呼んで下さいよ!」

「じゃあ、孝」

「うん、俺、孝」

説明がほしい。

今まさに名前を知ったんだよな?
直人。

どういう関係なんだ?





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