今日、寝坊したでしょ?
「直人先輩〜、俺〜、あなたが好きで〜す。馬鹿になるくらい、好きなんで〜す」
……………っ!
夢か。なんだ夢か。
だよな。だよな。
まさか、男が男の俺を好きだなんてありえないし。
あー、長い夢を見てたのかな。
そういえば、今、何時なんだろ。
うとうとと首をまわす。
時計は10時を示している。
「ち、ちっ遅刻だ!」
慌てて用意する。慌てて家を出る。通学路を思いっきり走り、学校へむかう。
間に合わなかった。いや、朝起きた時点で、間に合うことはないとわかってたはずなのに。
まだ寝ぼけているのか。俺。
「めずらしいじゃん。直人が遅刻だなんて」
「うるさいな。たまたまだよ」
お昼休み、同じクラスの親友が笑い事のように俺を見つめた。
どうしてか、こいつは人の顔をじっと見つめるくせがある。
俺としてはもう慣れっこなので平気だが、周囲からは変な目で見られやすい。
悪い奴じゃないんだけどな…。
「じゃ俺、購買行ってくるから、お前は座ってろ。あ、何がいい?」
「いちごミルクと夢見がちロール」
「……………あ、わかった。いつも通りでいいんだな」
親友こと岸和田は呆れたように笑う。
いいじゃないか。
おいしんだからさ。
ただちょっと女子に人気あるだけだで、別に男が頼んじゃだめなわけでもないじゃん。
「はぁ……」
いやだな。こんな世界。
俺は椅子に座ると大きなため息をついた。
眠いし……。
「あ〜、直人先輩〜。今日、寝坊したでしょ?」
…………誰?
急に、後ろから声をかけられて、振り返ってみたものの、全く誰だかわからない。
そういえば俺、部活してないし、そんな親しい呼び方されるような後輩はいなかったような…。
「あ、覚えてないですよね。俺、昨日、あなたに告白した一年生です」
「だ、あれ、夢じゃないのか?」
告白男子だったのか。てっきり、夢だと思っていたわ。
「夢じゃないですよ。俺、本気で告白しましたよ。昨日。先輩は完全スルーしてくれちゃいましたが」
……夢じゃないのか。
キラキラと目を輝かせる告白男子に、俺はげんなりした。
「悪いけど、俺、男は好きじゃないし」
「え、あ。わかってますよ! 安心して下さい。ではまた会いましょうねー」
ぶんぶんと手をふりながら、告白男子は去っていった。
謎だ……。
「直人? どうした? 今まさに変なものでも見たような顔して」
いちごミルクと夢見がちロールが俺の目の前に現れた。
「いや、何でもないよ」
そう。今、優先すべきは昼飯だ。
いやいや、親友の岸和田との昼飯だ。
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