5
「大変だね?」
「はい?」
「人のこと調べてばかりで、自分のこと調べられているの気付かなかった?」
「え?」
「俺に、わかないことは同居人と天然さんだけなんだよ。ま、女装趣味もわからないけどね」
「神崎課長、何を言ってるんですか?」
「演技が胡散臭いって言ったんだけどね」
「…いつから知っていたんですか?」
急にしおらしくなった奴を見て、俺は楽しくなってきた。
「認めるんですか?」
わざと敬語とかつかってみる。
「話し方真似しないでください」
女性社員は、いや、神崎千香は真剣な顔をして俺を見つめた。
やっぱ、人を脅すのは楽しい。
翻弄されるよりも、翻弄したい。
俺はケイに振り回されすぎて、なんだか、久りぶりの感覚に酔いしれてしまいそうだった。
「千香くんは、もともと可愛い顔をしていたもんね。大丈夫だよ。誰も気づかないと思うし。会長の趣味にも、俺、偏見ないし。元秘書がね、なんて、思ってもないし」
「思ってんだろ?」
「うわー、猫かぶりやめてしまうのかい?」
「この状況でかぶって何になるわけ?」
「おっしゃるとおりです」
[*前] | [次#]
目次に戻る→