それは強さだと信じていた




  第四話 「泣きたくないから」


=小池side=


それは強さだと信じていた。
終わったことは終わったことで、片付けてしまえばいい。
過去は過去であって、これからに何も影響しないんだ。
俺は、ずっと、そうして、生きてきた。
これからも、そうして、生きていくのだと思っていた。
それは強さだと信じていた。
何もない孤独のなかに咲く花のように。
俺にとっての希望は、そう、次から次へと、必要のないことは忘れていくこと。
ただ、それだけだった。



「丹羽?」

朝、目が覚めて、君の名前を呼んだ。
ほこり臭い、資料庫で朝を迎えてしまった。

「あ、おはようございます」

嬉しそうに、キラキラとした目で、丹羽は俺を見た。
その瞬間、俺は、いろんなことが記憶の底から溢れていくのを感じた。
恥ずかしい。どこかに隠れてしまいたいくらいに恥ずかしい。

「昨日は…」

無理させてすみません、と丹羽は言った。
俺はすかさず、

「気にしなくていいから」

と、返した。
実のところ照れくさいので、触れないでほしい。
思い出して、しまうし、そのなんていうのかな、そっとしておいて、ほしいような気がした。

「終わったことだし、本当にマジで」

俺は精一杯、首を振った。
理由なんてわからない。
ただ、首が横に揺れた。
落ち着かない。

「……口癖ですよね。それ」

「え?」

丹羽は真剣な目をして、俺を見つめた。

「終わったことだからって、前も言ってなかったですか?」

「え、あ、そういえば、よく言ってる」

でも、俺はあまりそれを口に出していないはずなんだけど、最近は。
うん。若い頃は毎日のように言ってたけど。

あれ、誰に言っていたんだっけ?

俺は曖昧な記憶を一人、追いかけた。
すると、丹羽は悲しそうな目をして、

「聞いてほしいんですけど」

と言った。
俺は「うん」と頷いた。





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