第十一節 停滞という救いを唾棄せよ V



「今回はどうする?」
「三人ずつで校内を見て回る」
「人海戦術を取れたら、それが一番効率的なんだけどね。どう考えても無理でしょ」
「無理だろ」
「無理だな」
「無理だねー」
「相変わらずほかの子たちに辛辣で草」


 わたしと康くんがしっかり休憩したので、そろそろ探索再開をしようという話になった。花ちゃんの作戦にも、健ちゃんの発言にも納得だけど、遠回しとはいえ自分たち以外が役立たずだと断言している霧崎ボーイズの歪みなさよ。思わず失笑する。


「んじゃ、グッパで分かれる?」
「それが早いよね」
「チーム分けはちょっと待ってくれるか?」
「……げ、今吉さん」
「花宮?」
「どうしたの、翔ちゃん?」
「ワシと赤司でもう何人かピックアップしとるから、そいつら含めてチーム分けして咎探しに行ってもらおうかと思ってな。……花宮もお前らも、あんま嫌そうな顔せんといてくれる? 流石に傷つくわぁ」


 いざチーム分け、と思ったタイミングで、翔ちゃんからのストップがかかった。どうやら翔ちゃんと征ちゃんも人海戦術をしたいようで、その話をしに来てくれたらしい。この場にいない征ちゃんは、ピックアップしたメンバーへの声かけ中とのこと。……まあ、霧崎の説得には征ちゃんよりも翔ちゃんの方が適任だろうし、当然の役割分担だと思う。主に花ちゃんの手綱を握れるという意味で。

 そうして集まった面子は、翔ちゃん、諏佐くん、桜井くん、光ちゃん、和成くん、小堀くん、福井くん、ちーちゃん、実渕くんの計九人。そこへ霧崎ボーイズとわたしを加えた総勢十五人、三人ずつの五チームに分かれて咎探しを行う予定だ。翔ちゃん曰く、霧崎と同チームになっても連携が取れて、バケモノとの交戦経験が豊富またはリアルファイトの腕っ節が強く、なおかつ頭の回転が早そうな人を基準に選んだとのこと。……基準を聞いてものすごく納得した。

 なお、真っ先に選ばれそうな氷室くんは体育教官室の見張りのために除外。キセキの世代たちは万が一の時、征ちゃんとすぐ連携が取れるように体育館へ残ってもらうように決めていたらしい。確かに統率の取れたキセキたちは強そうだよね、バスケはもちろん、リアルファイトも。


「これからチーム分けするわけやけど、その前にリーダー決めとこか」
「リーダー?」
「せやせや。だらだらっと探索せんよう、リーダーがおった方がええやろ? もしもの時はリーダーの指示に従って行動するって決めておけば、チームの連携も取りやすいやろし」
「なるほど」
「んで、肝心のリーダーな。花宮、瀬戸、透さん、諏佐、ワシの五人で行くで」
「エッ」
「透さんもリーダーやからよろしゅう」
「エッ」


 やめて翔ちゃんそんなににやにやされたら眼鏡かち割りたくなる。


「じゃあ俺、透さんのチームがいいなー」
「は? 何言ってんのお前、透サンは俺たちと組むに決まってるでしょ」
「あら。貴方たちはもう何度も狛枝さんと組んでるでしょ? アタシたちに譲ってくれてもいいんじゃない?」
「え、実渕さん、アタシたちって、……えっ」
「高尾ご愁傷さま」
「やだやだ透 さん助けて!」
「大丈夫だよ和成くん、実渕くん優しいから」
「俺のメンタルがだいじょばない!!」
「あ、あの、僕もできたら諏佐先輩が狛枝さんのチームが……」
「桜井?」
「ひぃっ! スイマセンスイマセンスイマセン、僕なんかが我侭言ってスイマセン!」
「ちょっと翔ちゃん、そうやって桜井くんいじめないの」
「いっそリーダー五人がジャンケンしてドラフト会議したらいいんじゃねーの?」
「福井の案、面白そうだな」
「あの……そろそろ決めないと花宮さんが……」


 光ちゃんの控えめな声にちらりと一瞥し──すぐに目を逸らした。


「チーム組みたい人は手を上げて!」
「えっ」
「は?」
「はいっ!!」
「それじゃあ先着順ってことで和成くんと一哉くんは花ちゃんチームね。はい決まり!」
「えー!?」
「なにそれ!?」
「わたし別に誰とチーム組むか言ってないもん。花ちゃんの相手は任せた」


 悪いが二人には生贄になってもらおう。にっこり笑顔でサムズアップすると一哉くんたちからは大ブーイングが起こったが、翔ちゃんとちーちゃんと福井くんは大爆笑で、小動物コンビに至ってはホッと胸をなでおろしている。色んな意味で仕方ないね、今の花ちゃんの相手を進んでしたがる人とかいないと思うから。強硬手段もやむを得ないのである。合掌。

 というわけで、先程のカオスの原因になった二人もいなくなったことだし、残りのチームもパパっと決めてしまわなければ。福井くん案のドラフト会議は確かに面白そうだけど、それはそれでまた揉めそうなので今回は見送る。結局、選抜メンバー十人にそれぞれ一から五までの数字を二人ずつ適当に割り振り、チームリーダー組はジャンケンで一から五までの順番を決め、同じ番号のリーダーとメンバーでチームを組むことにした。最初からこうすれば楽だったよなーと少しだけ遠い目をしたのは、翔ちゃん以外に気付かれていないと思いたいです。はい。


「じゃ、わたしたちは外メインで探そっか」
「はい」
「おー」


 そんなこんなで決まったわたしのチームメイトは光ちゃん、福井くんのPGコンビだ。探索の担当場所は校舎周辺と中庭、万が一バケモノと遭遇した時は逃げることを最優先する手筈になっている。表向きの理由はわたしが怪我をしているためだが、本当の理由はバケモノの強襲でわたしが再起不能になるのを阻止するためである。……まあ、あのレポートを読んだ後であれば当然の措置というか。とにかく安全第一で行こうねと二人には話してある。


「透さん、今回は探し物って話ですけど、何を探すんですか?」
「それがですね、光ちゃん。どんな見た目で、どんな形をしているかも正直わからないんですよ」
「えっ?」


 しれっと嘘をついたが、あながち間違いでもないので問題なかろう。うん。だって『咎』が刃物かもしれないっていうのも、あくまで花ちゃんたちの予想に過ぎなくて、まだ確信を得ているわけじゃない。

 あと、もし仮に、本当に『咎』が刃物だったとしても、それが剥き身で置いてあるとは到底思えないっていう個人的な思考もちょっとだけ働いていたりする。いや、これが余計な先入観って可能性も十二分にあるんだけども。……果たして実際のところはどうなんだろうか。


「そんなもの探せるのか?」
「探せる探せないの問題じゃなくて、絶対に探さなきゃいけないんだよね。これが。なんでも、ここから元の場所に戻るために必要なものらしくて」
「へぇ……。なら、せめて何処にあるかはわからないのか? 場所のヒントみたいなのとか」
「ああ、それなら──」


 今回は探し物が目的なので、ヒントになりうる情報の開示はしても構わないと許可を貰っている。そのため、迷いなく前回の探索で見つかった駒鳥のカードの文章をそらんじ、福井くんと光ちゃんにも聞かせることにした。


「……全然わかんねーな」
「はい……」


 ごく短く、しかも詩的で曖昧な文章には二人も首を傾げている。とはいえ、あの頭脳班にもわからない謎だ。彼らがわからなくても仕方ないよなと思う。わたしだって未だにわからない。


「多分、木の近くじゃないかなとは思うんだけど」
「木の近く?」
「そうそう」


 校舎の周りをのんびりと歩きながら視線を動かし、カードに記されていた墓標らしきものを探す。とはいえまったくもって見つかる気配がないので、二人のひらめきに期待し、お喋りにもちょっぴり精を出すことにした。他力本願? 細かいことはいいんだよ。重要なのは自力で見つけることではなく、確実に『咎』を見つけることなんだから。


「健ちゃん……霧崎の瀬戸くんに教えてもらったんだけど、クックロビンのマザーグースによれば墓穴を掘ったのがフクロウなんだって。鳥が穴を掘るんなら校庭みたいな場所より、木の近くなんじゃないかなぁと思って」
「今の話を聞いてて思ったけど、それならなるべく土が柔らかい場所にありそうじゃないか? まさか鳥の足や嘴がシャベルみたいに固いってわけでもないだろうし」
「なるほど」
「じゃあ、重点的に見るのは木の近くで、なおかつ土がやわらかそうな場所……ってことでいいですか?」
「うん。とりあえずその辺りに注目してみて、それっぽいのがなかったらもうちょい細かく探していこう」
「りょーかい」
「あと、バケモノ出たら探索切り上げて体育館に向かってダッシュね。アイツらどんどんカタくなってきてるから」
「わかってるって。今吉にもすげー言われたから」
「翔ちゃんが? なんて?」
「狛枝さんが殿をやろうとしても、降旗と二人がかりで引きずって体育館に戻れってさ」
「ホントもう翔ちゃんのわたしの扱いの酷さね」


 いや、まあ、確かにわたしは桐皇+誠凛の合同チームで探索した時、翔ちゃんにめっちゃ怒られるという前科をやらかしているわけで。そう言われちゃっても仕方ないんだけど。


「任せてください! 絶対に引きずって帰ります!」
「光ちゃん??」


 わたしが引き摺られる前提なのは何故。


「……全然見つからないですね」
「そうだねぇ。駄弁ってるうちに、あっという間に校舎の周りぐるっと一周しちゃったし」
「んじゃ、中庭行くか」


 うーん。どこからも声がかからないってことは、他のチームでも見つかってないってことだろうし。本当に何処にあるんでしょうね、もうちょっとわかりやすいヒントが欲しかったなぁわたしは!


「なー狛枝さん」
「なんだい福井くん?」
「もーちょいヒントっぽいのないか? 流石にあの変な文章だけじゃわかりようがねーよ」
「ヒントっぽいのって……例えば?」
「まだわかってない暗号とか、カードの違和感とか?」
「……今吉さんと花宮さんと赤司にわからない暗号なんてあるんでしょうか?」
「……。……言っておいてなんだけど、そんなのなさそうだな。それに、アイツらにわからない暗号が俺らにわかるとも思えねぇし」
「強いて言うなら『咎』の在処くらいだと思うけどね……」


 と言いつつ、頭の中で何か引っかかるものがあるような気がした。無論、暗号云々についてではなく、カードの違和感についての方だ。


「カードの違和感……違和感……?」


 あっ。


「なんかあったのか?」
「たぶん? ……『咎』の在処について書いてあった鳥のカード、珍しく微妙に文字が滲んでたっていうか」


 わたし自身あまり気にしていなかったし、花ちゃんたちも何も言わなかったので尚更気にならなかった部分なのだが……。


「『クックロビン』って単語の全部じゃなくて、一部分だけ滲んでたのね。後半の三文字……『ロビン』って部分なんだけど」
「……なんでそこだけ滲んでたんでしょう?」
「実はそこが重要だったりしてな」


 福井くんの言葉を受け、今一度、改めて考えてみることにする。


「ロビン……ロビン……」
「ぱっと浮かぶのは『ロビンソン・クルーソー』ですけど、きっと関係ないですよね……?」
「マザーグースと同じくイギリス生まれの作品だから、可能性はゼロじゃないかも? ……うーん、でも墓標がどうこうってのと結びつかないしなぁ」
「イギリスでロビンって言ったら、俺なら『ロビンフッド』が思いつくけどな。まあ、完全にソシャゲの影響だけど」
「……『ロビンフッド』?」


 おや、と思ったのは、何もロビンフッドが登場するソシャゲに惹かれたからではない。……いや、確かにそれもちょこっと思ったけれど、もしかしてわたしの世界のソシャゲと同じかもと興味をくすぐられたりしたけれど、今はそれは関係ないのである。


「ロビンフッドのお墓って、」
「?」
「……ロビンフッドの墓標って何処にあったっけ?」
「……あ」


 福井くんが声を上げる。

 たぶん、今、わたしたちは同じことを考えているはずだ。


「ロビンフッドの墓標があるのは、彼が死に際に撃った弓矢の飛んで行った先で……。肝心の弓矢が突き刺さった場所にあったのは、確か──」



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