「バレたら私、氷漬けの刑になるかもしれない」

かなり真剣に言ったその言葉に、ミロも笑みも浮かべずに頷いた。
ようするに二人とも真剣で、不安で、そして恐怖を感じていたのだ。私たちの目の前には広場の大時計。その時計が示す数字は夜の十一時。

ギリシャ、アテネの夜の十一時。
まだ空いているバーやタベルナはあるが、それでも恋人でもない若い男女が二人で連れ立ち歩く時間ではない。

手の中の紙袋をそっと抱きしめ、隣に立つミロを見上げた。


「こっそり戻ろう、それでばれないうちに部屋に戻って、明日何事もなかったようにカミュに接すれば良いんだよね」

人差し指を立てて提案した私に、ミロも腰に手を当て頷く。

「ああ、そうしたほうが良いな。ばれた時のことなど恐ろしくて考えたくもない。お前は今日九時に宝瓶宮に戻った、しかしカミュが真面目な顔で何かを考え込んでいたから声をかけるのはよした、ということにしておこう」
「嫌よ、私、カミュに嘘はつかないって決めているの」
「嘘と命のどちらが大事だ」

そんな軽口を叩きながら早歩きで聖域に向かう。

カミュはまだ起きているだろうか。もう眠ってしまっているかもしれない。いつもなら遅くまで出かけて、宮に戻ったときに彼が起きて待っていてくれているのはとても嬉しいが、今日は別だ。


「ミロと二人っきりでこんな時間まで会っていた、なんてばれたら絶対勘違いされる」


その言葉に、ミロも僅かに顔を歪めて頷いた。
カミュにばれたら面倒なことになるのは考えずとも分かるからだ。

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