慌てて私も身をひるがえし、それに銃を向ける。だがやはり人間だと思い込んでいた青年にまだ迷いを振りきれていないというのも事実で、銃声の合間に声を張り上げる。

「保護対象じゃ、なかったんですか?」
「あれが保護すべき対象に見えるか?」

冷静なアイオロスさんの言葉の直後にかちり、と乾いた音が響いた。弾切れか。

アイオロスさんがその用済みになった銃をホルスターに手早く戻す気配と同時に、全身を悪魔の血と、自ら流した血によって赤く濡らしたそれはゆらりと立ち上がった。

「…保護対象には見えませんね。でもこんなことってあるんですか」
「情報の混合の結果としてよくあることだ」


そんな一言で片づけられる状況ではないだろう。
何が目的かは知らないがあのままでは人外のこれを逃がしてしまうところだった。それも人の多く住む町にだ。

考える間もなく、唸りながら飛び掛かってきたそれの横腹に蹴りを入れ、壁へと叩きつけた。すぐに照準を合わせ発砲する。だがそれが壁を蹴り、飛びのいたため、足首に銃弾はかすっただけだった。


「では、あれは何故戻ってきたんです!?倒してしまっていいんですか!」
「野放しにしておくつもりか?」
「まさか」

ならばここで片付けなければならないことは分かっているだろう。アイオロスさんの低い言葉に従う以外の行動を私は知らなかった。


「戻ってきたのは都合が悪いからだ。私はこれと初見だが、直接会った君に正体を気付かれると面倒だから、先に片付けておこう、そんなところだろう」
「私のせいですか?」
「他に何が?」

本来なら最初に出会ったときに気配に気が付き止めを刺しておくべきだったのだというアイオロスさんの意見には全力で同意ができる。しかし、それでも私は気づくことができずに逃がしてしまったのだ。それが私のせいと言わず、誰のせいになるのか。他に何が問題があると言ったアイオロスさんに顔を顰めて首を振る。

「いいえ、何も」


先ほどは今の溢れるような悪意や殺意がすっかり身を潜めていたから気が付かなかった。…気が付かなかったで済む問題ではなくなるところだったが、これは私のもとへと戻ってきた。私を片付けるためだったとしても。

何にせよ、人々のためにも町に出すわけにはいかない。


そう思った瞬間、アイオロスさんに背中を押された。


「え?わ、わっわっわ、」


慌てて足を出そうとしたところに死んだ悪魔が倒れこんでいることに気が付き、踏みつけないように足を前に出した。そのため大きく態勢を崩しかける。そこへ元保護対象のそれが飛び掛かってきた。


銃を向けるにしても、この態勢からでは軌道がずれ、まず当たらない。

ならばと隠しナイフへと手を伸ばした瞬間、短い発砲音が響き銃弾がそれの脳髄を打ち抜いた。瞳から光を無くし、腕をだらりと落としながらも飛び掛かる勢いだけは消えなかったそれを、飛び込んできたアイオロスさんが蹴り飛ばした。


壁にぐしゃりと叩きつけられたそれは、もう動かなかった。

無表情にそれを見下ろしながら私の前に立ったアイオロスさんへと視線を送る。

「…何故、押したんですか」
「ちょうどいい囮になってくれたことを感謝している」
「そんなところだろうと思っていましたけど、ちょっとは優しさを期待した私が間違っていたみたいですね!」


やはり彼の私に対する扱いは、パートナーに対するものとは思えないのだが、私の認識が間違っているのだろうか?
世間一般ではパートナーを囮に敵の前に弾き飛ばすものなのか?

…恐らく、私の認識が間違っていないのだろうが、真にそれが正しいことを祈る。
そんなことを考えながら、もう動かなくなった二つの死体を見下ろした。

3/5
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